メモリ解放忘れが引き起こすバグとセキュリティリスクを徹底解説

2025年4月29日火曜日

セキュアコーディング

メモリ解放忘れ、それはプログラムに潜む静かな時限爆弾かもしれません。

普段は問題なく動いているように見えても、ある日突然、予期せぬエラーやパフォーマンスの低下、さらには深刻なセキュリティ問題を引き起こす可能性があるんです。

この記事では、そんなちょっと怖い「メモリ解放忘れ」について、以下の点を初心者の方にも分かりやすく、そして面白く(?)解説していきます。

  • メモリ解放忘れがなぜプログラムにとって良くないのか
  • うっかりメモリ解放を忘れてしまいがちなシチュエーション
  • メモリ解放忘れが引き起こす、メモリリークや脆弱性といった怖い影響
  • メモリ解放忘れを未然に防ぐための、今日からできる実践的なテクニック


メモリ解放忘れとは?セキュアコーディングの第一歩

まず、「メモリ解放忘れ」って一体何のことでしょう?

プログラムが動くとき、計算したりデータを保存したりするために「メモリ」と呼ばれる作業スペースを使います。例えるなら、作業机のようなものですね。

プログラムは必要に応じてOS(コンピューターの管理人さん)に「机、貸して!」とお願いしてメモリを確保し、使い終わったら「ありがとう、もう使わないから片付けるね!」とOSに返却(解放)するのがルールです。

メモリ解放忘れとは、この「片付けるね!」の部分をうっかり忘れてしまうこと。つまり、借りた作業机をいつまでも占有しっぱなしにしてしまう状態を指します。

これがなぜマズいかというと、使える作業スペースがどんどん減ってしまうからです。

最初は良くても、何度も机を借りっぱなしにしていると、いずれ新しい作業をするスペースがなくなってしまいますよね?これがプログラムの世界で起こると、動作が遅くなったり、最悪の場合は動かなくなってしまったりするのです。

そして、セキュアコーディング、つまり安全なプログラムを作るという観点から見ると、もっと深刻な問題につながることもあります。

使い終わったはずの机(解放済みメモリ)に、後から来た別の人が大事な書類(データ)を置いてしまうかもしれません。もし最初の人が、片付けたはずの机にまだアクセスできる状態だったら…?大事な情報が漏れたり、悪意のある人に書き換えられたりする危険があるのです。

だから、メモリの確保と解放をきちんと管理することは、安定したプログラム、そして安全なプログラムを作るための基本中の基本、セキュアコーディングの第一歩と言えるわけです。

なぜメモリ解放忘れは起こるのか?よくある原因

「ちゃんと解放すればいいんでしょ?」と思うかもしれませんが、これが意外と忘れやすいんです。

特にプログラムが複雑になってくると、うっかりミスが発生しやすくなります。どんな時にメモリ解放忘れが起きやすいのか、よくある原因を見ていきましょう。

複雑な制御フローとメモリ解放忘れ

プログラムって、条件によって処理を分けたり(if文)、同じ処理を繰り返したり(ループ)しますよね。こういった処理の流れ(制御フロー)が複雑に入り組んでくると、メモリ解放の処理が漏れやすくなります。

例えば、ある条件の時だけメモリを確保して、別の条件の時だけ解放する、みたいなコードを書いたとします。

後からコードを修正して条件分岐が増えたり、途中で処理を中断して関数を抜けたり(早期リターン)するようになったりすると、「あれ?このルート通った時、解放処理してたっけ?」となりやすいのです。

// C言語の例:ちょっと複雑な条件分岐
void complex_function(int condition1, int condition2) {
    char* buffer = NULL;

    if (condition1 > 0) {
        buffer = (char*)malloc(100); // メモリ確保
        if (buffer == NULL) {
            // エラー処理
            return;
        }

        // 何か処理...

        if (condition2 == 1) {
            // 処理A
            free(buffer); // ここでは解放
            return;
        } else if (condition2 == 2) {
            // 処理B
            // あれ?解放処理がない! ← メモリ解放忘れ
            return;
        } else {
            // 処理C
            // ここにも解放処理がない! ← メモリ解放忘れ
            return;
        }
    }
    // condition1 が 0 以下の場合も解放されない

    // 本来なら、どこかで解放処理が必要
    // free(buffer); ← 例えば最後にまとめて解放?でも途中でreturnしてる...
}

上の例のように、関数の出口がたくさんある場合、それぞれの出口で適切にメモリが解放されているかを確認するのが大変になります。

どこか一つでも解放処理が漏れていると、メモリ解放忘れにつながってしまうのです。

エラー処理におけるメモリ解放忘れの罠

プログラムを実行している途中で、予期せぬエラーが発生することもありますよね。

例えば、ファイルを開こうとしたけどファイルが存在しなかった、とか。こういう時、エラー処理として特別な処理を行いますが、このエラー処理の中でメモリ解放を忘れてしまうケースも多いです。

正常に処理が進んでいる時はちゃんと最後にメモリを解放するコードが書いてあっても、エラーが発生して途中で処理が中断されると、その解放処理までたどり着かずに終わってしまう、というパターンです。

// C言語の例:エラー処理での解放忘れ
int process_data() {
    int* data = (int*)malloc(sizeof(int) * 10); // メモリ確保
    if (data == NULL) {
        return -1; // エラー①:確保失敗時はOK
    }

    FILE* fp = fopen("input.txt", "r");
    if (fp == NULL) {
        // エラー②:ファイルオープン失敗!
        // data を解放せずに return してしまっている! ← メモリ解放忘れ
        return -1;
    }

    // ファイルからデータを読み込んで処理...
    // ...

    fclose(fp);
    free(data); // 正常終了時は解放される
    return 0;
}

この例では、ファイルのオープンに失敗した場合、確保した `data` のメモリを解放しないまま関数を抜けてしまっています。

エラーが発生した場合でも、それまでに確保したリソース(メモリなど)は責任を持って解放する、という意識が欠かせません。

長期間生存するオブジェクトとメモリ解放忘れ

プログラムによっては、起動してから終了するまで、ずっと使い続けるデータや設定値などを保持しておくことがあります。

グローバル変数とか、プログラム全体で一つしか存在しないように設計されたオブジェクト(シングルトンパターンとか)がそれに当たります。

これらのメモリは、プログラムが動いている間はずっと必要なので、すぐに解放するわけにはいきません。でも、いつかは必ず解放する必要があります。問題は、その「いつか」がいつなのか、そして誰が解放する責任を持つのかが曖昧になりがちな点です。

特に規模の大きなプログラムや、複数人で開発している場合に、「誰かが解放してくれるだろう」とか「プログラム終了時にOSが勝手に片付けてくれるだろう(これは必ずしも安全ではありません)」といった思い込みから、解放処理が忘れられてしまうことがあります。

プログラムの設計段階で、長期間使うメモリの解放タイミングと責任者を明確にしておくことが、こうしたメモリ解放忘れを防ぐ鍵となります。

メモリ解放忘れが引き起こす深刻な問題点

さて、メモリ解放忘れがどんな時に起こりやすいか見てきましたが、次は「で、結局忘れると何がヤバいの?」という核心部分に迫りましょう。

「たかがメモリの解放忘れでしょ?」と侮ってはいけません。これが原因で、目に見えるトラブルから、水面下で進行する深刻なセキュリティリスクまで、様々な問題が発生する可能性があるのです。

メモリリークによるパフォーマンス低下と不安定化

これがメモリ解放忘れによる最も直接的で分かりやすい影響、「メモリリーク」です。

解放されなかったメモリは、プログラムが使い終わった後もOSに返却されず、確保されたままの状態になります。これが少しずつ溜まっていくと、まるで水道の蛇口が完全に閉まらず、ポタポタ水が漏れ続けているような状態になります。

最初はわずかな量でも、プログラムが長時間動き続けたり、メモリ確保と解放忘れを繰り返したりすると、漏れ出す水の量(=利用可能なメモリ)はじわじわと減っていきます。その結果、

  • プログラム全体の動作がどんどん遅くなる(パフォーマンス低下)
  • 新しいメモリを確保できなくなり、プログラムが異常終了する(クラッシュ)
  • OS全体のリソースが圧迫され、他のプログラムやシステム全体が不安定になる

といった問題が発生します。特にサーバーのように長時間稼働するプログラムでは、わずかなメモリリークでも致命的な結果を招くことがあるのです。

Use-After-Free脆弱性とその危険性

メモリリークも困りますが、セキュリティの観点から見るともっと恐ろしいのが「Use-After-Free(ユーズ・アフター・フリー)」と呼ばれる脆弱性です。

これは、一度解放したはずのメモリ領域に、後から再びアクセスしようとしてしまうバグのことです。解放されたメモリは、OSによって「ここはもう空き地ですよ」と認識され、別の目的(他の変数やデータのため)に再利用される可能性があります。

そんな「空き地」に、以前の住人(解放前のデータを指していたポインタなど)が勘違いしてアクセスしてしまうとどうなるでしょう?

// Use-After-Free のイメージ (概念図)

[ メモリ領域A (データXが入っていた) ]

1. プログラムが領域Aを解放 (free)
   → 領域Aは「空き地」になる

[ メモリ領域A (空き地) ]

2. OSが領域Aを別の目的で再利用し、データYを書き込む

[ メモリ領域A (データYが入っている) ]

3. プログラムが勘違いして、解放済みの領域Aに (データXのつもりで) アクセス
   → 意図せずデータYを読み書きしてしまう!

意図しないデータを読み込んでしまってプログラムが誤動作したり、最悪の場合、攻撃者がこの「空き地」に悪意のあるコードを仕込んでおき、プログラムにそれを実行させてしまうといった、極めて深刻なセキュリティ攻撃(任意コード実行)に繋がる危険性があるのです。

これはセキュアコーディングにおいて絶対に避けなければならない問題の一つです。

Double Free脆弱性と予期せぬ動作

もう一つ、メモリ解放忘れと関連して注意したいのが「Double Free(ダブル・フリー)」です。これは文字通り、同じメモリ領域を二回以上解放しようとしてしまうバグです。

「一回解放すればいいところを、念のためもう一回解放しちゃった、テヘ♪」では済まされません。メモリ管理システムは、どの領域が使用中でどの領域が空き地かを管理するための情報(帳簿のようなもの)を持っています。

既に解放済みの領域を再度解放しようとすると、この管理情報が壊れてしまう可能性があるのです。

管理情報が壊れると、

  • プログラムが即座にクラッシュする
  • 一見問題なく動いているように見えても、メモリ管理システムが内部で混乱し、後々予期せぬ場所で問題が発生する
  • Use-After-Free と同様に、メモリ管理の仕組みを悪用した攻撃に繋がる可能性がある

といった事態を引き起こします。解放処理は、必ず一回だけ行う。これもメモリ管理の鉄則です。

鉄壁ガード!メモリ解放忘れを防ぐためのセキュアコーディング実践術

メモリ解放忘れの怖さが分かったところで、いよいよ対策編です!幸いなことに、この問題を未然に防ぐための考え方やテクニック、便利な仕組みが色々と存在します。

ここでは、皆さんが今日から実践できる、メモリ解放忘れを防ぐための具体的な方法を紹介していきましょう!

基本原則:確保と解放はペアで考える

まず一番の基本は、メモリを確保するコードを書いたら、そのすぐ近くに対応する解放処理を書くという習慣をつけることです。

C言語なら `malloc` と `free`、C++なら `new` と `delete` (あるいは `new[]` と `delete[]`) が必ずペアになるように意識します。

// C言語の例:確保と解放を近くに書く
void good_practice() {
    int* data = (int*)malloc(sizeof(int) * 10);
    if (data == NULL) {
        // エラー処理
        return;
    }

    // data を使った処理...
    printf("処理を実行中...\n");

    free(data); // 処理が終わったらすぐに解放!
    data = NULL; // 解放後はヌルポインタを入れておくとより安全
}

処理が複雑になる前に、確保したメモリの責任範囲を明確にし、不要になったらすぐに解放する。

この単純なルールを守るだけでも、解放忘れのリスクを大幅に減らすことができます。どこで確保し、どこで解放するのかを常に意識することが肝心です。

RAIIを活用した自動的なリソース管理(C++など)

毎回手動で `free` や `delete` を書くのは、やっぱり忘れやすいし面倒くさい…と感じる人もいるでしょう(正直、私もそうです!)。

そんな時に非常に役立つのが、特にC++で強力な「RAII(Resource Acquisition Is Initialization)」という考え方と、それを実現する「スマートポインタ」です。

RAIIを簡単に言うと、「リソース(メモリなど)の確保はオブジェクトの初期化時に行い、リソースの解放はそのオブジェクトの寿命が終わる時に自動的に行う」という設計パターンです。これを実現するのがスマートポインタ(`std::unique_ptr` や `std::shared_ptr` など)です。

// C++の例:スマートポインタ (unique_ptr)
#include <memory>
#include <iostream>

void process_with_smart_pointer() {
    // メモリ確保と同時に unique_ptr で管理開始
    std::unique_ptr<int[]> data(new int[10]);

    // エラーチェックは new が例外を投げるので不要な場合も
    // (nothrow を使わない場合)

    // data を使った処理... (通常のポインタのように使える)
    data[0] = 100;
    std::cout << "スマートポインタで処理中: " << data[0] << std::endl;

    // 関数を抜ける時に、data が自動的にメモリを解放してくれる!
    // delete[] data; を書く必要がない! ← 超便利!
} // <-- ここで data の寿命が尽き、デストラクタが呼ばれ delete[] が実行される

int main() {
    process_with_smart_pointer();
    // 例外が発生した場合でも、ちゃんと解放されるのが強み
    return 0;
}

スマートポインタを使うと、プログラマが明示的に解放処理を書かなくても、オブジェクトがスコープ(有効範囲)を抜ける際に自動的にメモリを解放してくれます。

これにより、複雑な制御フローやエラー処理があっても、解放忘れの心配が劇的に減ります。現代的なC++プログラミングでは、生のポインタでメモリ管理をする代わりに、スマートポインタを使うのが一般的です。

メモリリーク検出ツールの活用

人間だもの、ミスはあります。どんなに気をつけていても、メモリ解放忘れを100%なくすのは難しいかもしれません。そこで頼りになるのが、メモリ関連の問題を検出してくれる専用のツールです。

代表的なものに以下のようなツールがあります。

  • Valgrind (主にLinux/macOS)
    メモリリークだけでなく、Use-After-FreeやDouble Free、不正なメモリアクセスなどを検出できる強力なデバッグツール。
  • AddressSanitizer (ASan)
    ClangやGCCといったコンパイラに組み込まれている機能で、コンパイル時にコードを計装し、実行時にメモリエラーを高速に検出。
  • Dr. Memory (Windows/Linux/macOS)
    Valgrindに似た機能を持ち、様々なメモリエラーを検出可能。

これらのツールを使ってプログラムを実行すると、「ここでメモリリークしてるよ!」とか「解放済みのメモリにアクセスしようとしてるよ!」と教えてくれます。

定期的にこれらのツールでチェックする習慣をつけることで、自分では気づかなかったメモリ解放忘れや関連するバグを早期に発見できます。

# Valgrind の簡単な使い方 (Linux/macOS のターミナルで)
# 1. デバッグ情報付きでコンパイルする (例: gcc -g my_program.c -o my_program)
# 2. Valgrind を使って実行する
valgrind --leak-check=full ./my_program

静的解析ツールによる事前チェック

プログラムを実行する前に、コードを分析して問題のありそうな箇所を指摘してくれるのが「静的解析ツール」です。これもメモリ解放忘れの防止に役立ちます。

例えば、以下のようなツールがあります。

  • Cppcheck: C/C++向けのオープンソース静的解析ツール。メモリリークの可能性などを指摘。
  • Clang Static Analyzer: Clangコンパイラに統合された静的解析器。複雑なコードパスをたどり、潜在的なバグを発見。
  • PVS-Studio: 高機能な商用静的解析ツール(個人やオープンソース向けに無料ライセンスあり)。

これらのツールは、コードの書き方から「この変数、確保された後どこでも解放されてないみたいだけど大丈夫?」といった具合に、メモリ解放忘れの可能性がある箇所を警告してくれます。

コンパイルする前やコードレビューの際に静的解析ツールを実行することで、実行時デバッグよりも早い段階で問題に気づき、修正することができます。

【まとめ】メモリ解放忘れを克服しセキュアなコードへ

さて、メモリ解放忘れの恐ろしさと、それを防ぐための具体的な方法について見てきました。最後に、今回の内容を簡単にまとめておきましょう。

  • メモリ解放忘れは、使えるメモリが減るメモリリークや、プログラムの不安定化を引き起こします
  • Use-After-FreeやDouble Freeといった深刻なセキュリティ脆弱性の原因にもなります
  • 複雑な処理の流れやエラー処理、長期間使うメモリの管理で発生しやすいです
  • 対策として、確保と解放をペアで考える基本、RAII(スマートポインタ)、各種デバッグ・解析ツールの活用が有効です

メモリ管理は、特にC/C++のような言語ではプログラマの責任が大きく、最初は少し難しく感じるかもしれません。でも、今回紹介したような原則やツールを意識してコーディングする習慣をつければ、メモリ解放忘れのリスクは確実に減らせます。

今日からできることとして、

  • 自分の書いたコードで、メモリ確保(`malloc`, `new`)と解放(`free`, `delete`)がペアになっているか見直してみましょう
  • C++を使っているなら、スマートポインタの導入を検討してみましょう
  • Valgrindや静的解析ツールを試しに使ってみましょう

メモリ解放忘れを意識することは、単にバグを減らすだけでなく、より安全で信頼性の高いプログラムを作るための、セキュアコーディングの重要なスキルです。恐れることはありません!一歩ずつ、着実に安全なコードを書く技術を身につけていきましょう!

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リモートワークでエンジニア兼Webディレクターとして活動しています。プログラミングやAIなど、日々の業務や学びの中で得た知識や気づきをわかりやすく発信し、これからITスキルを身につけたい人にも役立つ情報をお届けします。 note → https://note.com/yurufuri X → https://x.com/mnao111

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